日米貿易交渉で注目、米国産バイオエタノールの現状(下)-「食糧を燃料に使うな」批判を乗り越えた

「トランプ大統領は農家を愛している」ー。米国の首都ワシントンで、全米トウモロコシ生産者協会のロビイストが語った。だからバイオエタノールの需要に、拡大の可能性が広がっているという。この見方は正しいのか。
ishiitakaaki 2025.07.29
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米政治家の積極的な農業支援

巨大な米農務省(ワシントン、筆者撮影)

巨大な米農務省(ワシントン、筆者撮影)

トウモロコシから作られるバイオエタノールについて、6月に現地取材をした。「日米貿易交渉で注目、米国産バイオエタノールの現状(上)-大統領から農家まで日本に期待」では、産地の状況を紹介したが、首都ワシントンの政治の状況はどうか。

米国では政治家との交渉は、業界団体が雇う「ロビイスト」という職業の人が行う。弁護士などが兼業する場合も多く、そうした団体の政治活動は資金、交渉の面で日本より公開されている印象がある。

米国では農家への支援、そしてバイオエタノールへの支援は二大政治勢力の現在政権与党の共和党と民主党は共に熱心だと、前述のロビイストは話した。ただし少し関心の方向が違うという。これまでの民主党の政治家、また支援者は「脱炭素」の手段としてバイオエタノールを支援した。一方で共和党の政治家と支援者は「クリーンエナジー推進に反対、化石燃料が好き」だ。ただし「農家を豊かにする」という意見には大賛成だ。もちろん、どちらの政党の議員も、この2つの論点に関心を向けるが、力の入れ方が少し違う。この人の政治活動でも、相手の政治家によって、少し主張の方向を変えるそうだ。

かつてはバイオエタノールに、米国で強い政治的影響力を持つ石油産業が批判的だった。シェアを奪われるからだ。しかし最近はEVの販売拡大が続くため、かつてほど敵対的ではなくなった。電化に対抗するため、液体燃料同士で手を組む考えになったらしい。

「トランプに農家が振り回される」批判も

しかしこのロビイストによると、政治的な課題も多い。米国では大気浄化法の規制で、バイオエタノールは原則E10(エタノール含有率10%)のみが売られ、それ以上の含有率の商品を売る場合は、1年ごとにEPA(環境保護庁)の許可を得なければならない。拒否されることはほぼないが、各州で毎年事業者がそれを申請する手間のかかる状況になっている。

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20年前に一部地域のバイオエタノールの品質が夏の高温で劣化し、またその影響で大気汚染物質が増加してしまうなどのデータが出たことがあったためという。今は技術革新でそれは改善した。ところが米国でも一度作った法律の改正は難しいようで、環境派の活動家や議員が規制緩和に反対している。それを変えることが今の業界の課題だという。

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  • 「食べ物を燃料に使うな」批判
  • 動いた現実を見て世論も納得
  • 大規模導入前夜の日本、何が必要か

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